あらゆる文章は特定の雰囲気を持っている。

文章に書かれている内容よりも、その底に流れている雰囲気の方が、人により多くの影響を与える。しかし通常、読者の意識は文章に直接的に書かれている内容にのみ向けられ、底に流れる雰囲気についての自覚的な気づきは無いことが多い。

雰囲気についての気づきが無いまま文章を読み進むと、読者はその雰囲気を自分の無意識下に吸収する。

そして読者の意識は、その文章が持っていた雰囲気と、同じ雰囲気を発し始める。

意識が発する雰囲気は、同種の雰囲気を持った事物を呼び寄せる。

そのため、その読者の前には、似たような雰囲気を持った文章がより多く集まってくることになる。そしてその読者は、そのようにして集まってきた文章を読むことにより、より多く、より深く、その雰囲気を無意識の中に吸収していく。

このようなフィードバック・ループが何かにつけて形成される。インプットするあらゆるもの、文章にしても、音楽にしても、日々の食べ物でも、出会う人についても、気がつけば同じようなパターンが形成される。

その結果、生活のあらゆる部分が、一定の帯域の雰囲気の中に封じ込められてしまう。

このフィードバック・ループの外へ、なんとかして出なければならない。でなければ一生、同じような雰囲気に包まれて生きることになる。

自分の無意識の中に根深く定着した、古い雰囲気を、なんとかして新しい雰囲気へと取り替えなければならない。

でなければゾンビのようなものだ。

心の中に、何十年もの時間をかけて、外から吸収し、内に蓄積させた、よどんだ雰囲気は、全部、窓を開けて、新鮮な空気と光に取りかえる必要がある。そして、クリアになったその空間の中で、長い間忘れていた、自分本来の雰囲気を思い出す必要がある。

そうすればきっと、人は生き返ることができるだろう。

木戸と空