自意識過剰によって苦しんでいる人は多い。

 それを治すことは可能である。

 過剰なのが問題なのだから、減らせばいい。

 過剰な自意識を減らせば、自意識過剰は治る。

 論理的な話である。

 だが人は、自意識過剰を治そうとして、なぜか自意識をよりいっそう、増やし、重くし、過剰にしていく方向へと進みがちである。

 それはどういうことなのか、解説してみよう。

 今ここに、自意識過剰のひとつの症状、たとえば対人恐怖のような症状を抱えた人がいるとする。

 その症状は、その人の自意識の中にある、何かしらの心の回路が生み出している。

 その回路こそが、過剰な自意識の正体である。

 その回路を消滅させることで、過剰な自意識は消滅し、それにともなって対人恐怖の症状も消える。

 これは原因が消えれば結果が消えるという、当然の話である。

 だが人は、この、問題を作り出している心の回路を修正、あるいは消滅させぬまま、別の、新たな回路を心の中に上塗り、増築するという選択を選びがちである。

 もしかしたら、そのような新たな回路を心にインストールすることによって、もしかしたら、対人恐怖などの不具合は、見かけ上、なくなったように見えるかもしれない。

 しかし問題を作り出す心の中の回路は、手つかずのまま心の中に残っている。

 よって、その回路が作り出す問題は、何かの別の症状としてその人の生活の中に生じる。

 そこで人は、その新たな症状を消すために、新たな心の回路を心に構築する。

 それによってまた問題は一時的に見えなくなるかもしれない。

 だが、結局のところ、その問題を作り出している大本の回路が、手つかずのまま心の中に残っている。そのため、その回路は問題をジェネレートし続ける。

 結果、何かしらの形で問題はその人の生活の中に吹き出すことになる。

 しかしその人は何重にも回路を増築して、心の中を複雑にしてしまった。

 そのため、問題を作り出している大本の回路が、本当はなんだったのか、もうその人には見えなくなってしまっている。

 これはパソコンで例えれば、バグっているアプリケーションをアンインストールしないまま、パソコンの挙動を見かけ上、正常化させる新たなアプリケーションを、どんどん新たにインストールしていくことに似ている。

 それによってシステムはどんどん不安定になっていく。

 問題を抱えたシステムに必要なのは、新たなアプリケーションのインストールではない。

 必要なのは問題を発生させているアプリケーションのアンインストール、あるいは修正である。

 具体的に言えば、つまりこういうことだ。

 ここに対人恐怖に悩んでいる山田さん(仮)がいるとする。

 山田さんに必要なのは、ネットで、「コミュニケーションスキルを向上させるための10の方法」などを読んで、それを心にインストールすること、ではない。

 新たな情報を摂取することではない。

 山田さんに必要なのは、自分の心の中をまっすぐに見つめ、その問題を作り出している、大本の原因を探り、それを修正、変容、あるいは浄化することである。

 そして、それは可能なのだ。