前回から続く

今回、詳しく見る失敗法則は『自分と他人を比べる』である。
『NHKにようこそ!』の作品内で、作中人物たちは、ことあるごとに他人と自分を比べ、それによって疲れ果てて、身動きが取れなくなっている。どうすればこのような悪習慣から人は脱出することができるだろうか?

ところで本稿を書くにあたり、ふと私は昨年暮れの横浜で会った女性のことを思い出した。

また昨年の暮れの話である。私は横浜で、例によってフリーコミュニケーションワーク(見知らぬ人に声をかけ閉じこもりがちな精神を解放する、成長のためのワーク)をしていた。

私は道を歩くおしゃれな女性にさっと声をかけた。

「あ、こんにちは、今日は天気がいいですね」
「そうですね」

なんとなくいい感じを感じた。私は道の左側にあったマクドナルドを指差した。
「あ、そこにマクドナルドがありますね。チキンナゲットが15ピースで380円だそうですよ。一緒に食べませんか?」
「いいですよ」

ということで私とその女性はマクドナルドに入店した。
席についてよく見てみると、おしゃれで可愛らしい女性であった。

どのようにおしゃれで可愛らしいのかは、私の文章表現力を超えているため、ここに書くことはできない。ぜひ皆さんの中で勝手に想像していただきたい。
何かこう、服に細かい模様があって、髪が特殊な色で、目がカラーコンタクトだった気がする。

とにかく私はそのおしゃれで可愛い、それでいて何かこう内面からにじみ出るクリエイティブな雰囲気を感じさせる女性とマクドナルドに入店した。

そして私たちは激安キャンペーンのチキンナゲットを食べつつ世間話をした。

聞くところによると、なんでも女性は空手の黒帯を持っているとのことだった。私も空手を何年かやった経験があるため、黒帯を取るのはとても大変なことであると知っていた。

「凄いですね」
「ハイキックもできますよ」

また、女性は絵を描いているとのことだった。スマホでいくつか見せてもらった。真剣さと才能を感じさせるイラストだった。

「すごい綺麗ですね」
「いくつか売ったこともありますよ」

その他にも才能や能力に溢れるエピソードをその女性からは沢山聞き出すことができた。才色兼備とはこのことか。
私はだんだん、畏怖の念を感じつつあった。街でそこらへんを歩いてる人に声をかけたら、なんだか凄く面白い人に当たってしまった。

いや、もしかして世の中の人は皆、こんなにも面白かわいい人ばかりなのだろうか?
私はこの世界の懐の広さとメンバー層の厚さに恐れおののいた。チキンナゲットも異様に安くて美味しかった。

しかしあるとき女性は、「わたし今、スランプに陥っています」と言った。
「スランプ? なんでですか?」
すると女性はどことなく疲れたような顔を見せた。
「わたしより凄い人には何をどうしても勝てないと分かったので。描いて楽しくなくなりました」

もしかしたら、自分と他人を比べて身動きが取れなくなるという現象は、『NHKにようこそ!』の中だけでなく世の中に蔓延しているパターンなのかもしれない。数ヶ月前の、あの大量のチキンナゲットの味を思い出しながら、私はそう思った。

失敗法則その2.自分と他人を比べる

自分と他人を比べると、以下のような悪影響が生じる。
• 恐れや焦りや惨めさを感じる
• 喜びを見失う
• 自分の活動が無意味に感じられる
• やる気がなくなる
• などなど

よくないね。こういうのは本当によくないから、なんとかしたいと思う。
『自分と他人を比べる』というのを失敗法則として、その反対のことを成功法則として提示しようというのがこのシリーズのコンセプトなので、とりあえず、『自分と他人を比べる』ことの反対を考えてみる。

それは、いくつも考えられるが、『人の成長に気を配る』なんてどうだろうか?

『自分と他人を比べる』とは、自分が他人に比べて、劣っていないか、負けていないか、気にするということだ。一方、人の成長に気を配るとは、他人を強く、逞しくしてあげることだ。

他人の成長を望み、そのために自分の力を使うとき、勝ち負けのゲームの外に出ることができる。そして、右左、前後左右、上下、優劣、正誤、そんなものを超えた、自分の本当の力を知ることができる。

つまり自分のことばかり考えるのをやめて、意識を反転させて、外側に向かって、何か良いエネルギーを出せということだ。

だがそんな利他的行為なんて、闇のNHK状態にある人間、たとえば作中の、佐藤や岬に可能なのか? そんな奴らが仮に利他的行動を取るにしても、それは偽善にすぎないのでは? そもそも心が弱ってる者が、良いエネルギーなんて出せるのか?

もちろん出すことができる。少しでも、良いエネルギーを外に出せば、それによって、自分自身が少しずつ元気になってくる。

また、ある程度は、岬ちゃんも佐藤くんも相手の成長を、本当に、心から、考えていたはずだ。岬ちゃんは佐藤くんをなんとかして励まそうとしていた。佐藤くんは、岬ちゃんの弱みに漬け込むようなことはすまい、彼女の成長の邪魔はすまいとしていたはずだ。

作中人物だけでなく、誰もが多かれ少なかれ、利他的な行動、他人の成長を望んでの行動を、日々の生活の中でしているはずだ。それが100パーセントのピュアなものでなくとも、5パーセント、あるいは0.01パーセントほどの薄いものであっても、いつも人間は多かれ少なかれ、他人の成長のために何かしている。何か良いものを外に向かって出している。

自分のそのような、優しい場所、本当の強さを持っている場所、心が広い場所を見つけ、それに意識を向け、それを少しずつ伸ばしていくことで、それはだんだん大きくなっていく。それによって、自分と他人を比べるというヤバい習慣を打ち消していくことができる。そしてどんどん外側に、良いエネルギーを出せるようになっていく。そのはずだ。

ということで、『自分と他人を比べる』という失敗法則から、以下の成功法則を抽出することができたようだ。

成功法則その2.『他人の成長に気を配る』

これをすることで、以下のような効果が得られる。
• 心に安らぎが生まれる
• 日々の活動に意味を感じられるようになる
• やる気や自信がでてくる
• などなど

近くにいる人でも、遠くにいる人のことでも、親しい人でも、親しくない人でも、その人の成長のために自分が役立てる何かを探してみよう。心が内側に向かい、自分が弱く感じられるとき、ぜひ試してみてほしい。きっといい効果があると思うよ。

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