『NHKにようこそ!』という作品の中に登場する、人間を失敗させるパターンを一つずつ詳しく見てゆき、それを成功のためのパターンへと変容させていく。それが本シリーズ、『NHKにようこそ!』に学ぶ10の失敗→成功法則である。
『NHKにようこそ!』ファン、かつ『何か自己啓発的な文章が読みたい』という、あまりにニッチな読者対象に向けたシリーズであるが、とりあえず最後まで書いてみたいと思う。
今日は3つめの失敗法則を詳しく見ていくことにする。
失敗法則その3.目の前にある幸運に感謝せず無視する
『NHKにようこそ!』作中における最大の幸運とは、『主人公、佐藤のところに岬ちゃんがやってくる』ことで異論はないだろう。作品が出版されたのち、地球が太陽の周りをたくさんたくさん回った今となっても、いまだ世界の様々な片隅では「なぜ佐藤のところに岬が来て、俺、私のところには来ないのか? 神様は不公平だ」という、自らの不運を嘆く声が響いている。イタリアで、ポルトガルで、ペルーで、ブラジルで、アメリカで、ロシアで、韓国で、中国で、それらの国々の片隅で。
だがもしかしたらすでに岬ちゃんか、それに相当する幸運な出来事が、人生の中に生じている可能性がある。だがそれに気づかずスルーしている可能性がある。
『NHKにようこそ!』作中でも、そのような幸運スルー事例が生じている。
そう、岬ちゃんが家にやってくるという幸運の影に隠れて誰も気付かないが、それ以上の幸運な出来事が、佐藤の身の上に起きていたのだ!
お気づきだろうか? 岬が家にやってくる以上の幸運、それは何かお気づきであろうか?
答えは『山崎が隣に引っ越してくる』である。
移り変わり激しい世の中にあって、気を許せる友人というものは、本当に良いものだ。
隣に住んでる山崎、それは値千金、いや金不換の価値がある。
クリエイティブで情熱的でかっこいい山崎。
佐藤を前に引っ張っていってくれる山崎。
だが佐藤は山崎が隣に住んでいてくれていることの幸運に気づかない。まったく、なんという愚かな男なのであろうか。佐藤がもっと、山崎が隣にいることの価値に気づいていたら、そして山崎が隣に住んでいることの幸運に気づけていたら、自然と感謝の気持ちが湧いてきたはずなのに……。
感謝の気持ちは人間の気持ちを明るくする。
感謝による明るい気持ちは、向精神薬五千個分のメンタルヘルス向上効果を持つ。
だから、佐藤が、自分がそのとき授かっている幸運に気づけさえしたら、それだけで佐藤のメンタルヘルスは良くなり、それによって問題解決能力が高まり、佐藤の抱えるあらゆる問題はいつの間にか氷解していたかもしれない。
また、もやもやとした重たい霧のような、佐藤の頭の中の淀んだ空気が、山崎への感謝から生じる明るい気持ちによって、少しずつ晴れていくかもしれない。その結果、将来への希望や夢が見えてくるかもしれない。
実際、作中では、エロゲークリエイターになるという立派な夢が、何度も佐藤の前に現れた。だがそれはすぐに蜃気楼のように消えていった。
なんで消えていったのだろうか?
一瞬、輝かしく煌めいたグレートな夢は、なぜ一晩立つと、馬鹿らしい妄想のように思えてしまうのだろうか?
朝になりテンションが下がると、それを追いかけることにはなんの意味もないように感じられてしまうのは、なぜだろうか?
答えは簡単だ。気分が暗くなってしまったからである。
気分が暗いと、将来の展望なんてものは何も見えなくなる。夢も見えなくなる。
夢を見て、それを継続的に追いかけるには、とにかく明るい前向きな気分が必要なのだ。そして、明るい気分になるための、最も簡単な方法、それが、感謝なのである。
成功法則その3『目の前にある幸運を見つけ、それに感謝する』
もしこの成功法則を実際に活用したい場合は、毎日、寝る前に、今日、自分の人生に生じている/生じた幸運を探し、それに感謝するといい。そうすれば感謝という感情が持っている、気分を明るくする効果によって、気分は本当に明るく、前向きになっていく。(気分が明るくなると、おそらく量子力学的な、なんかの効果で、人生の中に実際に良いことが起こる確率が上がっていく)
また、自分が今持っている、幸運なことリストを、ノートに書き出してみるのもいい。リストを作ったら、そこに書かれているものに対して、できるだけエモーショナルに感謝してみよう。これはいい気分になることが目的なので、感謝という行為によって気分が上がらなければ意味がない。だから形ばかりの感謝では意味がない。小さい頃、何かプレゼントを誰かからもらって嬉しくなったときのような、そんな気分を思い出そう。そしてリストの一つ一つに感謝して、自分の気持ちを上げていこう。
ちなみに『NHKにようこそ!』の佐藤くんは自分の置かれている状況をいつも惨めに感じていたが、その気になれば幸運は、岬ちゃんや、隣の山崎の件以外にも、腐るほど見つけることができる。
以下、佐藤くんに与えられている幸運を思いつく限り列挙してみよう。
- 親からの仕送りがあり衣食住何不自由なく暮らせること
- なんでも好きなことをする時間があること
- 部屋の中で、たくさん、強烈な面白い体験ができたこと
- 先輩と高校時代、仲が良かったこと
- 今現在、先輩と何か面白いことが起きそうなこと
- シナリオライターになるという夢があること
- シナリオを書くためのパソコンという道具を持っていること
- 自分が楽しめる娯楽に囲まれていること
- 高校時代は文芸部だったため、少なくとも知識としては、物語を書くということに慣れ親しんでいること
- 若いこと
- 健康であること
- 知的な頭脳を持っていること
信じられない。こうして改めて考えてみると、なんていう幸運な男であろうかと、驚かざるをえない。こんな幸運な物理的状況に置かれている人間を、どうやったら、あれほど暗い雰囲気の中に置くことができたのか、不思議と言わざるをえない。
人間の心というものは、雰囲気にたやすく屈する。人間、ひとりひとりが体験する現実は、その人が醸成している雰囲気によって形作られている。だから、その人の心が、暗い雰囲気を生み出していれば、その人の体験する現実は、どれだけ物理レベルで良い条件が揃っていようとも、暗く、醜く、辛い体験となる。逆に、物理レベルでは、そんなに良い条件が揃っていなくとも、その人の心が明るい雰囲気を生み出していれば、その人の体験する現実は、明るく、幸福なものとなる。
上に列挙したような、たくさんの幸運を持ちながらも、最低最悪な気分で、その時間を、苦痛とともに過ごすこともできる。
逆に、それらさまざまな幸運に、ひとつひとつ気づき、それに感謝することで、気分を明るくし、幸せなものにすることができる。そうすれば、その時間は、楽しく、幸せなものとなる。
これは単に選択の問題である。
苦痛を選ぶか、それとも楽しさを選ぶか、という。
幸運をスルーするか、それとも、それに気づき、嬉しくなるか、という。
どちらを選ぶかで、失敗か成功かが決まっていく。失敗、成功、それも結局は雰囲気、つまり主観的な感覚によって生み出されるものに過ぎない。
だから、今この瞬間、人生に失敗しているという感覚を得るか、成功しているという感覚を得るか、そのどちらの体験を体験するかは、自分で選択することができる。その意識的な選択力こそが、真の力である。それにより、闇の中に光を見つけ、それを明るく輝かせていくことができる。