本当に面白い娯楽とは、それを体験することで、実際に意識が変わり、それによって現実が変わるもののことである。本当に面白い娯楽とは、つまりイニシエーションそのものである。

イニシエーションとは、意識が不可逆的に、非連続的に拡張するための情報の受け渡しがなされる場のことである。またその情報を受け取ることによって己の意識を拡張するという選択がなされる場のことである。それによって量的変化ではない、質的変化が人の中に生じ、それによって、それまで想像したこともなかった可能性が人生の中に開けてくる。これこそが本当に面白いことであり、究極の娯楽である。

また、それに比べたら一段、劣るかもしれないが、なかなか面白い娯楽とは、イニシエーションのための、感情的、思想的準備を受け手にもたらすものである。

一段劣る、などと書いたが、実のところ、イニシエーションの本番と、その準備は、一つながりの坂道のようなものであり、それぞれ不可分なものである。物語も導入やセットアップ部分無くしてクライマックスは機能しないわけであるから。

よって、面白い娯楽とは、特定の段階のイニシエーションへと続く山道を登り、その頂点を制覇する過程であると言える。