ゴールデンウィークだ!

ゴールデンウィークと言えば、なによりフリーコミュニケーションにふさわしい時期だ!

ゴールデンウィーク某日、私は自分の中で格好いいと思っている服を身にまとい、駅前へと繰り出した。

駅前には大勢の人がいた。

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駅前には大勢の人がいた

「…………」

私は体勢を整えるため、駅ビルのクリスピークリーム・ドーナツで軽食をとった。

そして窓に面した席で、窓の外を歩く人々を眺めながら、そして紅茶を飲みながら、深い瞑想を始めた。

なにか困ったことがあったら瞑想するに限る。

フリーコミュニケーションとは、街で見知らぬ人に何の脈絡も無く話しかけ、何かしらのグッドコミュニケーションが両者の間に形成されることを試みる活動である。それは話しかける者と、話しかけられる者の間に、楽しさや面白さやトキメキを、無から創造するという、一種の錬金術めいた遊びである。

それは自己成長のためのワークであり、同時に自分の中に存在する様々なレイヤーのコミュニケーション欲を満たそうとする利己的行為でもある。

そしてそれは、現代の日本社会の、少し硬直化し、過度にシステム化されていると感じられるコミュニケーション領域に、草の根的に新風を巻き起こそうとする、一種の社会的活動なのであった。

だが、自慢ではないが私はもともと極度の人見知りだ。

数年におよぶハードなフリーコミュニケーション・ワークの実践によって、確かに私は精神の調子がいい時はサッと見知らぬ人に声をかけることができるまでに成長した。

でも、今日はちょっと、調子が悪いみたいだ。

知らない人は、怖い。

みんなが私を変な目で見てる気がする。

もうちょっと瞑想したら帰ろうかな。

どうしようかな……。

私はクリスピークリーム・ドーナツのお店の中で、ひたすら窓の外を歩く人を眺めながらディープなメディテーションを続けた。

とそのときだった!

窓の外を、なんだかよくわからないが、凄く話しかけたいと感じられる一人の人間女性存在が歩いて行くのを私の視覚がとらえた!

あーあーあーあーあーあー、話しかけたい、話しかけたい!

と、私の心の中のコミュニケーションを希求する部分が叫んだ。

「…………」

だが、その女性は窓の外を、私から見て、左から右方向へと歩き去っていった。

「…………」

何もできなかった自分が悔しくて、悔しくて、自己嫌悪を抱えながら、私はうずくまるように、そのままクリスピークリーム・ドーナツで瞑想を続けた。

ドーナツ屋さんを出ると駅前はもう夜だった。

私はとくにあてもなく、ビックカメラ前にある、謎の美術的オブジェの前に移動し、そこに腰を下ろした。

そして、また瞑想でもするか、と目を閉じかけたとき、ビックカメラの照明に照らされ、前方からこちらに向かって歩いてくる、ひとりの人間女性存在の姿に気がついた。

私は無心で立ち上がると、彼女に近づいていった。

そして声をかけることに成功した。

声をかけて数秒後に私は気づいた。

この人はさきほどドーナツ屋さんの前を通って行った女性だ。

凄く話しかけたいと感じたあの女性だ。

とりあえず私はその件について目の前の女性に伝えた。

「そうそう、さっき私、そこのドーナツ屋さんでドーナツを食べていたら、目の前を、なんか凄く話しかけたい! という感じの女性が歩いて行って……でも話しかけられず……でも今こうやって話しかけられて良かったです」

そのようなことを私は伝えた。

その後、女性にいろいろな質問をすると、彼女はさまざまなことを教えてくれた。

とある悩み事があり、その件に関して明晰さを得る必要があって、駅前を散歩をしている、という内容のことを教えてくれた。

私は「この周辺の地理には詳しいんですよ。そうだ、散歩しやすい場所へと案内してあげましょうか」という提案をした。

女性は私の提案を受け入れた。

そのため私は世間話をしながら、駅前の、散歩するにふさわしい静かな方向へと女性を連れて行った。

しばらく夜道を歩くと、左の方に、巨石が等間隔で地面に並んでいることに気づいた。

「あれはなんでしょうね。古代遺跡でしょうか。どうやらあの巨石の列は、あの商業ビルの中にまで続いているようですね。入ってみましょう」

巨大な商業ビルの中へと続いていく巨石を追って行った。

すると私達は、一面に水が鏡のように張られている、ビルの一階フロアにたどり着いた。

極めて広大なそのフロアの中央には、薄い、大きな円形の鏡のように、水が張られているスペースがあった。その水場を囲むように、等間隔にベンチが並んでいる。

私達はそのベンチの一つに腰をおろした。

そのビルの昼間の風景

他のベンチにもいくつか座っている人影が見える。水音と、暗闇が私達を包む。

ビルの一階フロアには天窓があるが、そこから差し込むのはかすかな星明かりのみのようであった。その他、水辺の向こう側で営業している喫茶店とコンビニエンスストアの遠い灯りのみがこのフロアをうっすらと照らしていた。つまりそこは全体的に暗い場所で、ベンチに座った私は精神が落ち着いていくのを感じた。

そんな広大なスペースの真ん中にある、鏡のような水辺からは、結構な大きさの水音が響いていた。

水辺の端から中央方向に向かって、噴水のように幾筋も水が噴射されていたのだ。その水音がビル一階フロアに響いていた。

そんな中で、私と女性は様々な会話を交わした。

私は主に、パソコンや、iPhoneや、小説のこと、つまり自分の好きなことについて語っていたように思う。

その会話の途中、女性がそのとき悩んでいたことへと会話が移行しようとしたその瞬間のことだった。

ふいに水辺の噴水が止まり、ビルの一階フロアは深遠な静寂に包まれた。まるで誰かが私達の会話の流れに合わせて、水音を止めてくれたかのように。

噴水が止まり、より鏡のように静かになった水辺の前で、私と女性は、しばらくそのシリアスなトピックについて会話を交わした。

その話を聞いている私の中に、さまざまなイメージや感情が、湧き上がっては、水に溶けていくように消えていった。

そして、どれだけの時間が経ったのかはわからないが、そのシリアスなトピックが終わったと感じられたとき、そして、会話内容を世間話に移行したちょうどそのとき、再び噴水の噴射が始まった。

ビル一階フロアは、その気持ちのよい水の音にもう一度、全体的に包まれた。

私達は驚きの声を上げた。

私達の会話の状況に合わせて水音が止まり、また流れだすという、そのタイミングは、まるで私達が映画の中にいて、最適なタイミングによる演出をほどこされているかのようであった。もしそのような演出がなされているとしたら、それは、私達が深い会話に意識を没入することができるように、そして最適なタイミングで普段の日常に戻っていくことができるように、という優しい意図のもとになされているようであった。

そんな不思議な体験のあとで、私達はビルから出て、そして駅前へと戻っていった。

歩きながら、何か夢見心地な気分から、だんだん日常的な気分へと自分が戻っていくのが感じられた。

駅前へと近づいていくその途中で、私は自分のホームページや瞑想について彼女に語った。

「実は私、ホームページを作ってるんですよ。そのホームページには、岬を召喚する瞑想というのがアップロードされていて、それを聴くと恋愛運がアップします。あ、岬というのはですね、凄く天使みたいな女の子で、説明すると長くなるんですが……」

その他、岬を召喚する瞑想の取り扱い方法についても説明することができた。

「そうそう、この瞑想はですね、その岬ちゃんというのがどんなキャラか知らない人が聴いても、ちゃんと効果を発揮します。とにかく岬ちゃんのことを、天使のように、自分のことを優しく愛してくれる存在であるというふうに想像してください。そうすれば効力を発揮します。その岬ちゃんというのが何なのかわからなくてもOKです。女性にも効きますので、ぜひ聴いてください」

その後、しっかりと、本ホームページのURLも伝えることができた。

というわけで、LINEも交換せずに別れましたが、おかげさまで楽しい実りある時間を過ごせました。ありがとう!

ぜひ瞑想ファイルを聴いていただければ幸いです。

あとは短編小説や、まだ未完成でちょっと荒削りですけど長編小説や、その他いろんなエッセイや、創作瞑想なんてのもある、盛りだくさんで面白いページなので、ぜひいろいろ読んで楽しんでいってください。

そうそう、平日は毎晩、インターネット瞑想会もしています。気が向いたら参加してみてくださいね!