潮の満ち引きや、季節のめぐり変わりなど、万物にはそれぞれ特有のリズムがあって、そのリズムに合わせて相を移り変わらせている。道端の朝顔が咲いて萎むリズムから、銀河の周りを太陽系が巡る際に描くサインウェーブに至るまで、小さなものから大きなものまで、それぞれ固有のリズムに合わせて周期的に運動している。

人間にも幾つか関係するリズムの周期が存在している。まずは一年というリズムだ。新年にはお祝いして心機一転し、心身の調子を整える。その他もろもろの季節の行事というものが各文化に存在している。

つまり地球と太陽と月の関係性から生じる太陽系レベルでのリズム、そのレイヤーに重なって、文化レベルでのリズムが存在していると言える。それぞれの文化には特有のリズムがある。

次により小さなグループレベルでのリズム。学校や会社など、個人が属している集団のリズムが存在する。

次に家族レベルでのリズム。やはりどの家族にも特有のリズムがある。

通常、人は無意識的に、これら多数、重なって存在している各種のリズムに自らを合わせて生きている。そのときには大きな集団と調和して生きる安心感が、無意識レベルで感じられている。

だが時に人はこのリズムから外れて生きることも必要になる。個を確立し、自らの中から、独自のリズムを生み出し、それに従って生きることができるようになるには、一度、集団のリズムなるものから自らを切り離す必要があるのかもしれない。

そのような、集団のリズムから己を切り離し、個を確立するための時間を、意識的な儀式として持っている文化も存在している。(いわゆるネイティブ・アメリカンのヴィジョン・クエストなど)

その儀式の中で、個人は集団のリズムから自らを切り離し、切り離された孤独の中で、自らの内から自らのリズムを発見する。そしてその発見によって新しくなった意識状態を、個人は集団へと持ち帰り、再び集団のリズムへと自らを調和させる。

それは逆に言えば、集団が、個人が孤独の中から持ち帰った新たなリズムに、集団のリズムを合わせるということでもある。異なったリズム同士が共鳴するとき、その双方の周波数に変化が生じる。それによって個人と集団のリズムが共に再調律、アップデートされる。

だが、このような文化的な仕組みを持たない文化の中で、自らを集団のリズムから切り離すとき、個人はより大きな危機を体験する。

そのとき人は、糸が切れた凧のように、フラフラと宛もなく空に飛んでいってしまうかもしれない。そしてバランスを崩し、地に激突するかもしれない。そしてその上に冷たい雨が降るかもしれない。

失敗法則その5.なにかと極端に走る

『NHKにようこそ!』作中で主人公佐藤くんは最初から最後まで、ガクガクとアップダウンを繰り返し続けていた。おそらく長年に渡るひきこもり生活のせいで、脳内麻薬のバランスが崩れているのだろう。凄まじい勢いで気分が上下変動する。

(ただ上下に変動するということは元気さの現れでもある。本当に疲れ切ると、気分はピクリとも上を向かず、最底辺のところでフラットラインを描き続けるからだ)

上下運動するのは彼の気分だけではなく、各種の行動も極端から極端に走っている。

  • 食生活
    • しばしば絶食している
  • 性生活
    • 特にコミック版では、脳に悪影響が出そうな自慰行為に耽っている
  • 睡眠バランス
    • めちゃくちゃになっている

そもそもひきこもりの佐藤くんの生活が極端に走ってしまうのは、しかたのないことだという考えもある。だが、よくよく見てみれば、佐藤くんの生活の中にも、バランスをとるべき、ワークとライフを見出すことができる。

その場合、山崎とのゲーム制作がワークであり、岬ちゃんとのふれあいがライフということになる。この側面に関しては、一時的に良いバランスが取れていた瞬間があったかもしれない。岬ちゃんのカウンセリングを受けては、山崎とのゲーム制作に戻る、という。

だが彼はそこに安定した構造を作り、維持することができなかった。

安定した構造とは、答えが存在していない不安定な状態を許容することによって、初めて存在することができるようになる、そんな逆説的なものだ。

ゲーム制作で言えば、完成するかどうかわからないものの完成を目指して、一歩一歩、地道な作業を続け、先の見えない長い道のりを、ひたすら前に進んでいくという不安を許容することである。

人間関係で言えば、互いの立ち位置や、距離感や、相手の気持ちがわからない状態の不安定感を許容し、無理に何かを確定させようとせず、ひとつひとつ、丁寧に、コミュニケーションのキャッチボールを続けていくということである。

そういった曖昧さの濃度の高い部分に、豊穣な意味性や、たくさんの成長の機会が転がっている。だが、佐藤は短期的な達成を求め、ドラッグで即座の覚醒を求め、シナリオ執筆では瞬時に能力が上達しない自分を責め、岬ちゃんの気持ちが理解できないことにもやはり耐えられない。

だから焦って早く何かの答えを出そうとするが、そうすればするほどリズムは狂い、生活は極端に振れていく。

成功法則その6.どっしりかまえる

焦らずにどっしりかまえることで、自分本来のリズムを見つけることができる。

お腹が空いても、焦ってインスタントに食欲を満たそうとせず、まずはどっしりかまえることで、だんだん過食にも少食にもならない、自分にちょうどいい食生活のリズムを見つけることができるようになる。

性欲に駆られても焦ってそれを解消しようとせず、まずはどっしりとかまえることで、自分にとってちょうどいい性生活のスタイルを見つけることができる。

何か早くとにかく、何かをなんとかしなきゃと焦りにかられても、まずはどっしり構えることで、適切なタイミングでの適切な行動を見つけることができる。

どっしりかまえるとは、瞬間瞬間に発生する、「焦り」「欠乏感」「不安感」を、そのままそこに置いてくことである。そして、そういったネガティブなトリガーによって、自分を行動に駆り立てようとしないことである。

焦りや不安や欠乏感などなど、様々なネガティブな感情的トリガーがある。そういったトリガーによって、自らを駆動したとき、その行動から返ってくる結果は、やはりネガティブなものになる。

焦りによって生じた行動は、より大きな焦りを生み出す。欠乏感から生じた行動はより大きな欠乏感を生み出す。

だから、落ち着かない気持ちや、焦燥感を、変化させようとせず、そのまま側に置いておく心の持ちようが必要だ。それを指して本稿では『どっしりかまえる』と表現している。

このような大木のような精神的姿勢は、佐藤くんのような人間とは、もっとも遠いところにある性質である。

だがどのような性質も、それを求めることで、自分の中に養うことができる。

自分の中に大木のようなどっしり感を養うことができる。

たとえどれほど浮ついた生活をしている人でも、一秒ごとに気分が揺れるような落ち着かない人でも。

何か、ネガティブな気分によって、自分が行動に駆り立てられそうになったときは、以下のような、一瞬の瞑想によって、どっしりかまえることができるようになる。

  • 目を閉じ、深呼吸する
  • 心の中に、美しい公園を想像し、その公園の中央に大木をイメージする
  • 大木の根が、地球の中心にまで伸びていることをイメージする
  • 自分がその大木になり、大地に深く根を下ろし、どっしりと安定して、くつろいで存在していることをイメージする
  • 空からさんさんと降り注ぐ美しい陽の光を緑の葉に浴びる、そんなイメージの中で安らぐ

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このような、どっしり感を自らの中に養うワークにより、生活の中の極端さは安定性へと変わっていく。そして個人は、いずれ自らの生活リズムを見出し、そのリズムを保ちながら、己が暮らす社会との間に調和を見出すことができるようになっていく。